黎明期の“信州ダービー”で主将 エルザのDNAをこの地に
芦田 徹(元長野エルザSC選手・現長野市立長野高等学校サッカー部監督)
「見る文化」の加速へ 教え子に期待を寄せる
―― 引退後は小諸商高校で指導を始めて、現在に至ります。その間に長野県のサッカーは「やる文化」だけでなく「見る文化」も醸成されていきましたが、どのように感じましたか?
とにかく羨ましい限りです。私の現役時代は現地でも映像でも、トップレベルのサッカーを見る機会が限られていました。それが今はこんなに気軽に見れるようになって、本当に幸せなことだと思います。私の近所のご高齢の方も以前はサッカーに携わることはなかったですが、今では毎週パルセイロの試合を楽しみにしています。私たちの時代にはなかったものが、この地域に根付いてきていると肌で感じます。
―― 昨年は市立長野高校、そして北信勢として、全国高校サッカー選手権大会長野県大会で初優勝を果たしました。北信のサッカーの盛り上がりについてはいかがですか?
北信に限らず、長野県には「みんなで何かを応援するという文化」がなかったと思います。その中でここ10〜20年で、サッカーを中心に一気にそういうものができてきました。まだまだ爆発的な熱量にはなっていないかもしれないですが、じわじわと各地で高まってきていると感じます。サッカーは一度スタジアムに足を運んでもらえれば、楽しいと感じるはず。そういう環境がこの地域にあるのは幸せでしかないですよね。
―― エルザのDNAが北信に広がって、それを引き継いでいるような感覚はありますか?
私自身が監督として選手権で優勝できたのは、たまたまだったと思います。エルザがパルセイロになって、この地域のトップクラブとして頑張って、サッカーをやるだけではなく、見たり支えたりする文化が少しずつ育ってきました。その結果として、たまたま市立長野が優勝できたということです。今までもここから先もそうですが、北信のチームが全国大会に出場したり、北信の選手が活躍できるのは、エルザがあったからこそだと思います。サッカー不毛の地と言われた北信が少しずつ良くなっていますし、長野県自体もプロの2クラブがあることで、サッカー文化が変わってきています。
―― その2クラブが11年ぶりに信州ダービーを戦いますが、どのような心境ですか?
純粋に楽しみですね。見方によってはリーグ戦の1試合に過ぎないですが、選手にとってもクラブにとっても、負けたくないという競争心が出てくると思います。
―― パルセイロは2014年からJ3に在籍していますが、どのように戦いぶりを見てきましたか?
パルセイロと山雅の試合は興味深いですし、ハイライトは必ずチェックしています。フルタイムで見られる時は見ますし、特にパルセイロは自分が携わったチームでもあるので、どういう戦いをしているのか気になりますね。市立長野の子どもたちがUスタでボールボーイを務めることもあり、子どもたちは喜んで行っていました。ピッチレベルで選手のプレーが見られるのは、すごく魅力的だと思います。
―― 過去の信州ダービーとはまた違う形かもしれませんが、新たな熱源になるという期待はありますか?
間違いなくありますし、これがまたJFLや北信越だったとしても盛り上がると思います。それくらい過去の試合は覚えていますし、プロでもなかったのに凄い雰囲気だったので、それがプロの舞台でとなれば強烈に盛り上がるはずです。地域にとっても盛り上がるチャンスで、考えるだけでもワクワクします。あの最高のスタジアムで試合ができるということで、サポーターの熱が倍増すると思います。
―― 教え子である山中麗央選手(市立長野高校出身)が出場する可能性もあります。
麗央のことは「まだメンバーに入らないかな…」と常にチェックしていました(第5節・いわき戦で初出場)。それも指導者として幸せなことです。
―― 彼も含めて、信州ダービーを戦う後輩に向けてエールをお願いします。
選手たちは幸せ者ですよね。プロ選手としてこういう場を経験する機会は少ないですし、限られたクラブでしかできないと思います。本当に名誉あることなので、ぜひ精一杯プレーして欲しいです。いつもより色々な方が見に来るはずですが、「また見に行きたい」と思わせるには必死に躍動している姿を見せることが必要だと思います。想像するだけでワクワクしますし、これを機にサッカーファンが増えるようなダービーにして欲しいです。